元運転士が解説 「入換え」と「入換信号機」

鉄道のしくみ

 終点についた電車が駅のホームの先にある引き上げ線に移動していく様子や車庫線の中で車両が移動している様子を皆さんも1度は見たことがあるのではないでしょうか。そのような車両の移動のことを本線運転とは区別して「入換え」といいます。

 今回は「入換え」の際に使用する「入換信号機」について解説いたします。解説にあたり「入換え」や「入換信号機」について知るにはまず、「列車」と「車両」の区別について知っておかなくてはなりません。

「列車」と「車両」

 鉄道において「列車」と「車両」という言葉は明確に区別されています。それぞれの言葉の定義は以下のとおりです。

車両・・・機関車・旅客車・貨物車及び特殊車であって、鉄道事業の用に供するもの

列車・・・停車場外を運転する目的で組成された「車両」のこと。

 「車両」は機関車や旅客車など鉄道のレール上を走る乗り物一つ一つのことを指します。人やモノを運ぶ容れ物のことのようなイメージで捉えるとよいでしょう。

 一方、「列車」は「車両」を連結して組み合わせたものであり、停車場外で運転するための必要な条件を満たしたものです。停車場内は駅長によって安全が保障されている区間ですが、そうではない停車場外については安全に関する一定条件を満たした「列車」でないと運転ができないのです。この「列車」と「車両」では見るべき信号も異なってきます。

「入換え」とは

 停車場内での「車両」の移動のことを「入換え」といいます。停車場内の安全は駅長が管理しており、「入換え」の際には駅長からの指示を受ける必要があります。指示を受ける方法のひとつに信号によるものがあり、その際に使用される信号機が「入換信号機」です。なお、信号機ではなく「入換合図」という合図により指示を受ける場合もあります。

 例えば、終着駅まで運転してきた列車がホームに到着し、客扱い終了後にホームの奥にある留置線に引き上げる場合を考えてみます。この場合、ホームに到着するまでは「列車」としての運転なのですが、ホームから留置線までの運転は「車両」の「入換え」となります。この時、ホームから車両の移動を開始する際に見るべき信号機が「入換信号機」です。

入換信号機の現示する信号機の種類

 入換信号機が現示する信号の種類は「進行信号」と「停止信号」の2種類です。入換信号機は防護区間をもった主信号の一種となります。また、灯の色によって信号が現示されていた閉そく信号機とは異なり、灯の並びによって信号が現示されています。このように灯の形、配列によって現示を表す信号機を灯列式信号機といいます。一方、閉そく信号機のように色で現示が表されるものを色灯式信号機といいます。

入換信号機による運転の方法

 入換信号機に進行信号が現示されたとき、車両の運転を開始します。運転する速度は時速25キロ以下となっている場合が多いです。(鉄道事業者によって異なることがあります。)運転可能な範囲は次の入換信号機、車両停止標識(車両の停止位置を示す)、車止標識(線路の終端を示す)までです。

入換信号機識別標識

 上図のような入換信号機に付属している一灯の表示灯のことを入換信号機識別標識といいます。入換信号機識別標識が点灯していれば「入換信号機」、消灯していれば「入換標識」として扱います。入換標識には安全を保障している区間である「防護区間」はありません。ただ先の線路が開通しているのかそうでないのかを表しているにすぎません。「入換標識」の場合、運転士のみで運転することはできません。入換合図を表示する係員による誘導が必要となります。

 ところで、故障以外の場合で入換信号機識別標識が消灯し、入換信号が現示できないときとはどのような場合が考えられるでしょうか。

 例えば、上図のように車庫線内で車両を縦列停車させたいときなどが考えられます。先の区間に列の車両が留め置かれているため、入換信号機に進行信号を現示することができません。この場合、入換合図による誘導を行うことで車両を所定の位置へ動かすことができます。

まとめ

 今回は主信号機の一種である「入換信号機」について解説しました。「列車」と「車両」の違いから「入換え」についても解説いたしましたので長編となってしまいましたが、最後までお楽しみいただけましたでしょうか。

 次回は主に列車、車両の連結に使用される誘導信号機について解説いたします。

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